筆者の職業は、漫才師。
コンビ名を髭男爵。
2008年に“まあまあ”売れたが、現状はさっぱりの一発屋。と同時に、この春、小学校に上がった長女と、今年6月に生まれた次女の父親でもある。
今のところ、長女に自分の本当の職業を教えてはいないという。
理由は一発屋であるから。
別に恥じているわけではないが、「負け」や「失敗」といった苦み成分を含んだこの言葉に、まだ人生が始まったばかりの娘を触れさせたくないのだそう。
今回、3人の子を持つテツ(テツandトモ)を訪ね、他の一発屋パパがどんな子育てをしているのか聞いたという。
「一発屋は育休」「”一発”はプライド」など、筆者とは違う子育て論がそこにあった!
一発屋 子育て、 テツandトモのトモ
「もう大変! 全員一気にボーンと……」
とため息をつくのは、お笑いコンビ「テツandトモ」の赤ジャージ担当、テツこと、中本哲也さん。
「ランドセルは用意せないかんわ、中学の制服でしょ、あと高校は……」
中学3年生の長男を筆頭に、小6の長女、幼稚園年長の次男と、2男1女の父親でもあるテツさん。
来年、その全員の進学が“重なった”というのだ。
今春、長女の小学校入学を経験した筆者としては、
(“あれ”の×3か……)
とゾッとしたが、半面、彼の元を訪れた理由もその辺りにあったという。
何しろ、子どもが3人。
とりわけ、興味を引かれるのが、
「もう、受験ですよ……」
とテツさんも感慨深げな、長男の存在である。
来年、高校生となる息子が、親の仕事について何も知らぬというのは考え難い。
「パパが一発屋」という事実が、彼や弟妹にもたらした葛藤や苦悩。
父はどう隠し、どう露見し、どう今に至ったのか?
この家族には、筆者が追い求めた問いの答え、目指すべき未来像があるに違いないと思ったという。
一発屋 子育て、一発屋を隠さないテツ
「2年くらい前、『今からショーをやるから見てほしい!』って長女がカーテンをパッとやったら、『なんでだろう~♪ なんでだろう~♪』って次男が飛び出してきて……」
と末っ子がテツトモのネタ、「うちの父さん寝てるのに、テレビ消そうとすると『見てるんだよ!』っていうのなんでだろ~♪」を“完コピ”してみせたエピソードを披露。
「マネしてくれて、すごくうれしかった!」
とご満悦だが、筆者は、理解しがたい光景だったという。
「まあ、最初は、子どもに『父さん出てるよ』って自分で言ってましたね」 とテツさんは暴露。
要するに、テツさんには、自分の正体を子どもたちに伏せる気など、毛頭なかったのである。
一発屋 子育て、 一発屋のレッテル 良いパパ
一発屋のレッテルを貼られながら、日本全国を飛び回る日々。
1週間家を空けるようなこともザラで、
「ねえねえ、母さん……父さんて死んだの?」
とまだ幼かった長男が不安になるほど、多忙を極めたが、
「自転車に乗って、近所の公園に連れていったり、(仕事が)午後からだったら、朝早く起きて一緒にザリガニ釣りに行ったりとか」
とあくまで子ども優先だったというテツさん。
それは今でも変わらず、
「長男は、ピアノと剣道を頑張ってる。音楽の遺伝(※テツさんは、もともと歌手志望。のど自慢大会での優勝歴もある)は、意外とね、一番下に行ってるかも。運動神経も一番下の子かな。あ、でも、娘も結構足が速い。男の子にも勝って学年で1番に……」
と実に子煩悩な、“良いパパ”である。
一発屋 子育て、子供は一発屋をどう思う?
では、当の子どもたちの目にはどう映っているのか?
特に、父と最も長い時間を過ごしてきた長男の心中は気になるところだが、
「最近、息子と会話がない……」
と取材中、しきりにこぼすテツさんに、半ば諦めていた筆者。
すると、
「実は今日、家を出る前に、(インタビューの趣旨を説明して)『おまえ、父さんのこと、どう思ってんのや?』『父さんが芸人をやってるの、どう?』って聞いてみた」
とテツさんが切り出した。
急遽始まった、親から子への取材は、
「いや、まあ別に……」
と最初は思春期特有の壁に阻まれたらしいが、
「親が芸人ってことで、イジメとか、嫌な思いしたことあるか?」
と食い下がる父に観念したのだろう、
「ないことはないけど……」
と長男が重い口を開いたという。
「『おまえの父さん、“なんでだろう”やってんだろう?』とか、『“なんでだろう”やれよ!』とかは言われたことがあると。一応それくらい。まあ、『おまえの父ちゃん一発屋だろ!』とかあっても、言わないかもですけど……」
そう息子の告白を伝えてくれるテツさんの表情は、さすがに少々複雑だったそうだ。
筆者も胸を締めつけられたという。
ずっと覚悟はしてきたという。
「カミさんとも、そういう時期は来るだろうと。メディアに出てると、『おまえの父ちゃん、“なんでだろう”のやつだろ!?』とかイジメられるかもとすごく怖かった」
一発屋 子育て 、テツの孫まで「なんでだろう~♪」
3人の子どもたちが、小・中・高へ同時進学を果たし、大人にまた一歩近づく、2020年。
テツさんは50歳と大台を迎える。
「ほっといても仕事は少なくなるから。そのときのために、今いただけるお仕事を一生懸命がんばる。体が動くうちに!」
とまだまだ鼻息も荒いが、仕事人間にも、いずれ穏やかな日々が訪れよう。
彼の視線の先には、
「なんでだろう~♪なんでだろう~♪……」
とはしゃぐ孫たちの姿が思い浮かぶ。
そして筆者は自問せざるを得なくなるのだ。
「自分の娘に、仕事のこと隠しているの、なんでだろう~♪」
と。
一発屋 子育て 、髭男爵の山田ルイ53世とは?
- 山田ルイ53世
- 本名:山田順三(やまだ・じゅんぞう)
- お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当
- 兵庫県出身
- 地元の名門・六甲学院中学に進学するも、引きこもりになる
- 大検合格を経て、愛媛大学法文学部に入学も、その後中退し上京、芸人の道へ
- 「新潮45」で連載した「一発屋芸人列伝」が、「編集部が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞し話題となる
- その他の著書に『ヒキコモリ漂流記完全版』がある。最新刊は『一発屋芸人の不本意な日常』
一発屋 子育て 、動画
こちらは、今回インタビューされたテツさんのネタ「なんでだろう」動画です。
こちらは、今回インタビュアーを務めた髭男爵のネタ「ルネッサーンス!」動画です。
緑の服の方がツッコミ担当の山田さんです。
一発屋 子育て 、終わりに
動画を見ていたら、なんだか懐かしくなりました。
テレビでは、全く観なくなってしまいましたが、地道な営業廻りを続けて生活していらっしゃるのですね。
子供に親が一発屋ということを、どう伝えるべきか?いや、教えないべきか?と悩んでいた山田さんですが。
今回、テツさんへのインタビューで何かが変わったように感じました。
一発屋で何が悪い!何も隠すことなく、子育てをするテツさんに心打たれたのでは?
コメント