学生であることを尊重しないアルバイト=「ブラックバイト」。
大内裕和中京大学教授が提唱したこの言葉については、今や多くの人が知るであろう。
特に、このブラックバイトの広がりが懸念されているのが沖縄県である。
沖縄県では、飲食・観光業が盛んだが、それを支えているのが大学生のアルバイトだからである。
また、沖縄県では本土よりも「ブラックバイト」に対する認知が進んでおらず、しかも、「規制が揺い」という実態も、問題に拍車をかけているという。

ブラックバイト 沖縄 深刻、「ブラックバイト」とは
そもそも「ブラックバイト」とは、「学生であることを尊重しないアルバイト」のことである。
近年、学生に対するアルバイトの拘束力が強まる中で、ゼミ合宿の予定が学生同士でどうしても合わなかったり、講義やゼミをアルバイトで休む学生が増えているという。
特に、コンビニや居酒屋チェーン店などでは人手不足が慢性化しており、学生が深夜営業の「中心的戦力」とされており、試験や就職活動の日程と重なっても休むことができないという事態も起きている。
実際に、「ブラック企業対策プロジェクト」が2014年に、全国の大学生4702人を対象に実施した調査では、学生が働く業種は下記の通りでした。
「(居酒屋・ファストフード店・チェーンのコーヒー店を除く)その他のチェーンの飲食店」(29.3%)
ヤフーニュース
「居酒屋」(18.7%)
「学習塾・家庭教師」(15.6%)
「その他小売(パン屋、弁当屋など)」(15.5%)
「コンビニ」(15.0%)
「スーパー」(10.8%)
このように、学生は主に「外食業」「小売業」「学習塾」で働いている。
また、調査によれば、約3割(29.0%)の学生が週あたり20時間以上就労しているという。
そして、アルバイトのために試験や課題の準備時間が取れなかったことがある学生は、全体では約4割(39.9%)に上る。
アルバイトのために授業を「たびたび欠席する」もしくは「ときどき欠席する」学生は1割弱(8.3%)、勤務時間帯が「24時を超えて5時まで勤務あり」の場合、2割(20.4%)に達する。
こうした結果からは、学生が長時間労働により学生生活を圧迫され、しかも、深夜営業に充当されることでその問題が拡大していることが分かる。
ブラックバイト 沖縄 深刻、 本土の会社員が副業として開いたかき氷屋
沖縄県では本土では規制が強まっているキャッチセールスが無規制など、学生の扱われ方に対し、劣悪な事例が問題化している。
当事者のAさんは、沖縄の大学に通う3年生。
学費の足しにしたいと思い、アルバイトを探していた時だった。
ネット上の求人で見つけたのが、新規開店する那覇中心部「平和通り」のかき氷屋だった。
このかき氷屋が魅力的だったのは、沖縄の最低賃金が762円なのに対し、時給1100円と比較的高い時給を謳っていたからである。
普通、大学生が従事するサービス業のアルバイトは最低賃金ギリギリであることは少なくない。
こうしてAさんは求人に応募し、オープニングスタッフとして採用された。
このかき氷屋を経営するのは株式会社で、社長Bは本土の映像制作会社で働いているという。
彼は「副業」として、沖縄でかき氷屋を営もうというわけだった。
この社長Bは普段現場に来ることはないため、Aさんと他の店員は社長Bと電話で連絡を取りながら、店の運営を行なっていた。
このかき氷屋にはイートインスペースがなく、他店に劣り、かき氷の売れ行きはあまり良くなかった。
時給が高かったこともあり、店員の中では給料が支払われないのではないかという不安が広がっていたという。
Aさんも同様に不安に感じ、1ヶ月でこの店に見切りをつけ、退職したという。
その際、社長に連絡を取り、退職の同意を得たが、特にトラブルになることもなかったという。
ブラックバイト 沖縄 深刻、退職後に賃金払われず
Aさんが退職した後、一切の賃金が支払われないという状態に陥った。
退職前の不安が的中してしまった格好である。
高い時給を設定し、賃金をそもそも払わないというやり口からは、本土から「副業」としてビジネスを展開し、失敗したら責任を取らずに撤退しようという「計画」が合ったのではないかとさえ疑われる。
ここで、Aさんは諦めなかった。
まず、店のシャッターの下に未払い賃金の請求書を挟んだ。しかし、これには特に反応がなかったため、シャッターそのものによく見えるように貼り付けてみた。
そうしたところ、商店街の他の店の人が気づき、店員経由で社長Bに伝わったという。
元店員の未払い賃金請求に気づいた社長は、Aさんに対して誹謗中傷のメッセージを立て続けに送ってきた。
特にひどいのは、「クソ田舎もんが調子に乗るな」というものである。
さらに、Aさんの電話には、早朝から非通知で62件もの着信が入っていた。
これらの行為は経営者としてあるまじきものである。
「クソ田舎もんが調子に乗るな」という暴言には、沖縄の人々に対する蔑視感が滲み出ている。
また、非通知の着信を62件も入れてくるなどは、社長Bによるものか確認できないとはいえ、彼による行為であれば、もはや常軌を逸している。
こうした誹謗中傷や嫌がらせを受けながらも、Aさんは労基署にも相談に行ったという。
しかし、労基署は調査を行うのみで、未払い賃金を支払わせることはできなかった。
結局、未払い賃金が支払われなかったことでAさんは学費の支払いに困り、別のアルバイトを行うことで補填するしかなかったのだった。
ブラックバイト 沖縄 深刻
Aさんは、ブラックバイトユニオンを紹介されました。
労働法を担当する教員も、「いつも暗い顔をしている」とかねてから心配していたという。
即座にAさんとユニオンの学生スタッフで行動を開始。
店に行って賃金支払いの申し入れを行おうとしたが、店は閉まっていたという。
近所の人に聞くと、経営難のためか、一週間に1日程度しか開店していなかった。
そのため、会社に賃金請求を直接送るしかないということで、会社の登記などを調べ、請求書を郵送で送付。
その数日後、社長Bから未払い賃金を支払うとの回答があり、実際にAさんの口座に振り込まれたのだった。
ただ、社長BはAさんに対して、勝手に辞めたことによる損害、制服代のレンタル代、シャッターの器物損壊の損害などを名目にした、根拠のない損害賠償請求書を送ってきた。これもブラックバイトを辞める時に脅すための典型的な手口である。
尚、このような損害賠償は成立しないため、請求が来ても基本的に無視すれば良い。
いずれにせよ、今回のケースは学生たち自身の労働組合(ユニオン)の力によって、未払い賃金が勝ち取られた事例となったのである。
労働組合法上、会社は労働組合の交渉を拒否することはできず、誠実に対応する義務が発生する。それは学生アルバイトのユニオンであっても、まったく変わるところがない。
今回の経営者のように、当事者に不誠実な態度を見せていたとしても、労働組合の要求に対しては対応しなければならないのである。
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